新聞が二枚揃えてあつた。代助は、門野が何時《いつ》、雨戸を引《ひ》いて、何時《いつ》新聞を持《も》つて来《き》たか、丸《まる》で知らなかつた。代助は長《なが》い伸《のび》を一つして起《お》き上《あが》つた。風呂場で身体《からだ》を拭《ふ》いてゐると、門野《かどの》が少《すこ》し狼狽《うろた》へた容子で遣《や》つて来《き》て、
「青山《あをやま》から御兄《おあに》いさんが御見えになりました」と云つた。代助は今直《いますぐ》行《ゆ》く旨《むね》を答へて、奇麗に身体《からだ》を拭《ふ》き取《と》つた。座敷はまだ掃除が出来てゐるか、ゐないかであつたが、自分で飛び出《だ》す必要もないと思つたから、急ぎもせずに、いつもの通り、髪《かみ》を分けて剃《そり》を中《あて》て、悠々と茶の間へ帰《かへ》つた。そこでは流石《さすが》にゆつくりと膳につく気も出《で》なかつた。立ちながら紅茶を一杯|啜《すゝ》つて、タヱルで一寸《ちよつと》口髭《くちひげ》を摩《こす》つて、それを、其所《そこ》へ放り出すと、すぐ客間へ出《で》て、
「やあ兄《にい》さん」と挨拶をした。兄《あに》は例《れい》の如《ごと》く、色《いろ》の
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