い。向側《むかふがは》だ」と教へながら歩《ある》き出《だ》した。神さんは礼を云つて跟《つ》いて来《き》た。代助は手探《てさぐり》でもする様に、暗《くら》い所を好加減《いゝかげん》に歩《ある》いた。十四五|間《けん》左《ひだり》の方へ濠際《ほりぎは》を目標《めあて》に出《で》たら、漸く停留所《ていりうじよ》の柱が見付《みつか》つた。神さんは其所《そこ》で、神田橋の方へ向《む》いて乗つた。代助はたつた一人《ひとり》反対の赤坂|行《ゆき》へ這入つた。
 車《くるま》の中《なか》では、眠《ねむ》くて寐《ね》られない様な気がした。揺《ゆ》られながらも今夜の睡眠が苦になつた。彼《かれ》は大いに疲労して、白昼《はくちう》の凡てに、惰気《だき》を催うすにも拘はらず、知られざる何物《なにもの》かの興奮の為《ため》に、静かな夜《よ》を恣《ほしいまゝ》にする事が出来ない事がよくあつた。彼《かれ》の脳裏《のうり》には、今日《けふ》の日中《につちう》に、交《かは》る/″\痕《あと》を残した色彩が、時《とき》の前後と形《かたち》の差別を忘れて、一度に散《ち》らついてゐた。さうして、それが何《なに》の色彩であるか、
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