何の運動であるか慥《たし》かに解《わか》らなかつた。彼《かれ》は眼《め》を眠《ねむ》つて、家《うち》へ帰《かへ》つたら、又《また》ヰスキーの力《ちから》を借りやうと覚悟した。
彼《かれ》は此《この》取り留めのない花やかな色調《しきちやう》の反照として、三千代の事を思ひ出さざるを得なかつた。さうして其所《そこ》にわが安住の地を見出《みいだ》した様な気がした。けれども其安住の地は、明《あき》らかには、彼《かれ》の眼《め》に映じて出《で》なかつた。たゞ、かれの心《こゝろ》の調子全体で、それを認《みと》めた丈であつた。従つて彼《かれ》は三千代の顔や、容子や、言葉や、夫婦の関係《くわんけい》や、病気や、身分《みぶん》を一纏《ひとまとめ》にしたものを、わが情調にしつくり合ふ対象として、発見したに過ぎなかつた。
十一の九
翌日《よくじつ》代助は但馬にゐる友人から長い手紙を受取つた。此友人は学校を卒業すると、すぐ国へ帰《かへ》つたぎり、今日迄《こんにちまで》ついぞ東京へ出《で》た事のない男であつた。当人は無論|山《やま》の中《なか》で暮《くら》す気はなかつたんだが、親《おや》の命
前へ
次へ
全490ページ中277ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング