へ》された。
 父《ちゝ》は今朝《けさ》早くから出《で》て、家《うち》にゐなかつた。何処《どこ》へ行つたのだか、嫂《あによめ》は知らないと云つた。代助は別に知りたい気もなかつた。たゞ父のゐないのが難有かつた。此間《このあひだ》の会見以後、代助は父とはたつた二度程しか顔《かほ》を合せなかつた。それも、ほんの十分か十五分に過《す》ぎなかつた。話が込み入りさうになると、急に叮嚀な御辞義をして立つのを例にしてゐた。父《ちゝ》は座敷の方へ出《で》て来《き》て、どうも代助は近頃少しも尻が落ち付かなくなつた。おれの顔さへ見れば逃《に》げ支度をすると云つて怒《おこ》つた。と嫂《あによめ》は鏡《かゞみ》の前で夏帯《なつおび》の尻を撫でながら代助に話した。
「ひどく、信用を落《おと》したもんだな」
 代助は斯う云つて、嫂《あによめ》と縫子《ぬひこ》の蝙蝠傘《かはほりがさ》を抱《さ》げて一足《ひとあし》先へ玄関へ出《で》た。車はそこに三挺|并《なら》んでゐた。

       十一の七

 代助は風《かぜ》を恐れて鳥打《とりうち》帽を被《かぶ》つてゐた。風《かぜ》は漸く歇《や》んで、強い日《ひ》が雲《くも》
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