「そら来《き》た。ね。だから一所に連《つ》れて行《い》つて御貰《おもらひ》よ」と梅子に話しかけた。代助には何の意味だか固より分《わか》らなかつた。すると、梅子が代助の方に向き直つた。
「代さん、今日《けふ》貴方《あなた》、無論|暇《ひま》でせう」と云つた。
「えゝ、まあ暇《ひま》です」と代助は答へた。
「ぢや、一所に歌舞伎座へ行《い》つて頂戴」
 代助は嫂《あによめ》の此言葉を聞いて、頭《あたま》の中《なか》に、忽ち一種の滑稽を感じた。けれども今日《けふ》は平常《いつも》の様に、嫂《あによめ》に調戯《からか》ふ勇気がなかつた。面倒だから、平気な顔《かほ》をして、
「えゝ宜《よろ》しい、行《い》きませう」と機嫌《きげん》よく答へた。すると梅子は、
「だつて、貴方《あなた》は、最早《もう》、一遍|観《み》たつて云ふんぢやありませんか」と聞《き》き返した。
「一遍だらうが、二遍だらうが、些《ちつ》とも構《かま》はない。行《い》きませう」と代助は梅子を見て微笑した。
「貴方《あなた》も余っ程道楽ものね」と梅子が評した。代助は益滑稽を感《かん》じた。
 兄《あに》は用があると云つて、すぐ出《で》
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