命令した。門野は妙な顔をして障子を締《し》めて出《で》て行つた。代助は暗《くら》くした室《へや》のなかに、十分許《じつぷんばかり》ぽかんとしてゐた。
彼は人《ひと》の羨《うら》やむ程|光沢《つや》の好《い》い皮膚《ひふ》と、労働者に見出しがたい様に柔かな筋肉を有《も》つた男であつた。彼は生れて以来、まだ大病と名のつくものを経験しなかつた位、健康に於て幸福を享《う》けてゐた。彼はこれでこそ、生甲斐《いきがひ》があると信じてゐたのだから、彼の健康は、彼に取つて、他人《たにん》の倍以上に価値を有《も》つてゐた。彼の頭《あたま》は、彼の肉体と同じく確《たしか》であつた。たゞ始終論理に苦しめられてゐたのは事実である。それから時々《とき/″\》、頭《あたま》の中心《ちうしん》が、大弓《だいきう》の的《まと》の様に、二重《にぢう》もしくは三重《さんぢう》にかさなる様に感ずる事があつた。ことに、今日《けふ》は朝《あさ》から左様《そん》な心持がした。
十一の二
代助が黙然《もくねん》として、自己《じこ》は何の為《ため》に此世《このよ》の中《なか》に生《うま》れて来《き》たかを考へる
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