た筋肉の張り具合や、彼等の肩《かた》から脊《せ》へかけて、肉塊《にくくわい》と肉塊《にくくわい》が落ち合つて、其間に渦《うづ》の様な谷《たに》を作《つく》つてゐる模様を見て、其所《そこ》にしばらく肉の力《ちから》の快感を認めたが、やがて、画帖を開《あ》けた儘、眼《め》を放《はな》して耳《みゝ》を立《た》てた。すると勝手の方で婆さんの声がした。それから牛乳配達が空壜《あきびん》を鳴らして急ぎ足に出て行つた。宅《うち》のうちが静かなので、鋭どい代助の聴神経には善く応《こた》へた。
代助はぼんやり壁《かべ》を見詰めてゐた。門野《かどの》をもう一返|呼《よ》んで、三千代が又くる時間を、云ひ置いて行つたか何《ど》うか尋ねやうと思つたが、あまり愚だから憚《はゞ》かつた。それ許《ばかり》ではない、人《ひと》の細君が訪《たづ》ねて来《く》るのを、それ程待ち受ける趣意がないと考へた。又それ程待ち受ける位なら、此方《こちら》から何時《いつ》でも行《い》つて話《はなし》をすべきであると考へた。此矛盾の両面を双対《そうたい》に見た時、代助は急に自己の没論理に恥ぢざるを得なかつた。彼の腰は半ば椅子を離れた。け
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