に這入《はい》つた。けれども、三千代《みちよ》が又|訪《たづ》ねて来《く》ると云ふ目前の予期が、既《すで》に気分の平調を冒《おか》してゐるので、思索も読書も殆んど手に着《つ》かなかつた。代助は仕舞に本棚《ほんだな》の中《なか》から、大きな画帖を出《だ》して来《き》て、膝の上《うへ》に広《ひろ》げて、繰《く》り始《はじ》めた。けれども、それも、只《たゞ》指《ゆび》の先《さき》で順々に開《あ》けて行《い》く丈であつた。一つ画を半分《はんぶん》とは味《あぢ》はつてゐられなかつた。やがてブランギンの所《ところ》へ来《き》た。代助は平生から此装飾画家に多大の趣味を有つてゐた。彼《かれ》の眼《め》は常《つね》の如く輝《かゞやき》を帯びて、一度《ひとたび》は其|上《うへ》に落《お》ちた。それは何処《どこ》かの港《みなと》の図であつた。背景に船《ふね》と檣《ほばしら》と帆《ほ》を大きく描《か》いて、其|余《あま》つた所に、際立《きはだ》つて花やかな空《そら》の雲《くも》と、蒼黒《あをぐろ》い水《みづ》の色をあらはした前《まへ》に、裸体《らたい》の労働者が四五人ゐた。代助は是等の男性の、山の如くに怒らし
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