《かほ》を洗ひに行《い》つた。頭《あたま》を濡《ぬ》らして、椽側《えんがは》迄|帰《かへ》つて来《き》て、庭《には》を眺《なが》めてゐると、前《まへ》よりは気分が大分《だいぶ》晴々《せい/\》した。曇《くも》つた空《そら》を燕《つばめ》が二|羽《は》飛んでゐる様《さま》が大いに愉快に見えた。
代助は此前《このまへ》平岡の訪問を受けてから、心待《こゝろまち》に、後《あと》から三千代の来《く》るのを待《ま》つてゐた。けれども、平岡《ひらをか》の言葉《ことば》は遂《つい》に事実として現《あらは》れて来《こ》なかつた。特別の事情があつて、三千代《みちよ》がわざと来《こ》ないのか、又は平岡が始《はじ》めから御世辞を使《つか》つたのか、疑問であるが、それがため、代助は心《こゝろ》の何処《どこ》かに空虚《くうきよ》を感じてゐた。然し彼《かれ》は此《この》空虚《くうきよ》な感じを、一つの経験として日常生活中に見出《みいだ》した迄で、其原因をどうするの、斯《か》うするのと云ふ気はあまりなかつた。此経験自身の奥《おく》を覗《のぞ》き込むと、それ以上に暗《くら》い影《かげ》がちらついてゐる様に思つたからで
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