ある。
 それで彼《かれ》は進《すゝ》んで平岡を訪問するのを避《さ》けてゐた。散歩のとき彼《かれ》の足《あし》は多く江戸川の方角に向《む》いた。桜《さくら》の散《ち》る時分には、夕暮《ゆふぐれ》の風《かぜ》に吹《ふ》かれて、四《よつ》つの橋《はし》を此方《こちら》から向《むかふ》へ渡《わた》り、向《むかふ》から又|此方《こちら》へ渡《わた》り返して、長い堤《どて》を縫《ぬ》ふ様に歩《ある》いた。が其|桜《さくら》はとくに散《ちつ》て仕舞つて、今《いま》は緑蔭の時節になつた。代助は時々《とき/″\》橋《はし》の真中《まんなか》に立《た》つて、欄干に頬杖を突いて、茂《しげ》る葉《は》の中《なか》を、真直《まつすぐ》に通《とほ》つてゐる、水《みづ》の光《ひかり》を眺《なが》め尽《つく》して見《み》る。それから其|光《ひかり》の細《ほそ》くなつた先《さき》の方《ほう》に、高く聳える目白台の森《もり》を見上《みあげ》て見《み》る。けれども橋を向《むかふ》へ渡《わた》つて、小石川の坂《さか》を上《のぼ》る事はやめにして帰《かへ》る様になつた。ある時《とき》彼《かれ》は大曲《おほまがり》の所で、電車
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