門野《かどの》は平気に答へた。
「何故《なぜ》起《おこ》さなかつたんだ」
「余《あん》まり能《よ》く御休《おやすみ》でしたからな」
「だつて御客《おきやく》なら仕方《しかた》がないぢやないか」
代助の語勢は少し強くなつた。
「ですがな。平岡の奥さんの方《ほう》で、起《おこ》さない方が好《い》いつて、仰《おつ》しやつたもんですからな」
「それで、奥さんは帰つて仕舞つたのか」
「なに帰《かへ》つて仕舞つたと云ふ訳でもないんです。一寸《ちよつと》神楽坂《かぐらざか》に買物《かひもの》があるから、それを済《す》まして又|来《く》るからつて、云はれるもんですからな」
「ぢや又|来《く》るんだね」
「さうです。実《じつ》は御|目覚《めざめ》になる迄|待《ま》つてゐやうかつて、此座敷迄|上《あが》つて来《こ》られたんですが、先生の顔《かほ》を見て、あんまり善《よ》く寐《ね》てゐるもんだから、こいつは、容易に起《お》きさうもないと思つたんでせう」
「また出《で》て行《い》つたのかい」
「えゝ、まあ左《さ》うです」
代助は笑ひながら、両手で寐起《ねおき》の顔《かほ》を撫《な》でた。さうして風呂場へ顔
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