、代助は如何に、自己を侮辱する気になつても、是ばかりは馬鹿気《ばかげ》てゐて、口《くち》へ出す勇気がなかつた。そこで已を得ないから、実は色々計画もあるが、いづれ秩序|立《だ》てゝ来《き》て、御相談をする積であると答へた。答へた後《あと》で、実に滑稽だと思つたが仕方がなかつた。
 代助は次《つぎ》に、独立の出来る丈の財産が欲《ほ》しくはないかと聞かれた。代助は無論|欲《ほ》しいと答へた。すると、父《ちゝ》が、では佐川の娘《むすめ》を貰《もら》つたら好《よ》からうと云ふ条件を付《つ》けた。其財産は佐川の娘《むすめ》が持つて来《く》るのか、又は父《ちゝ》が呉《く》れるのか甚だ曖昧であつた。代助は少《すこ》し其点に向つて進んで見たが、遂に要領を得なかつた。けれども、それを突き留める必要がないと考へて已《や》めた。
 次《つぎ》に、一層《いつそ》洋行する気はないかと云はれた。代助は好《い》いでせうと云つて賛成した。けれども、これにも、矢っ張り結婚が先決問題として出《で》て来た。
「そんなに佐川の娘を貰ふ必要があるんですか」と代助が仕舞に聞いた。すると父《ちゝ》の顔《かほ》が赤《あか》くなつた。

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