は互に凡てを打ち明けて、互に力《ちから》に為《な》り合《あ》ふ様なことを云ふのが、互に娯楽の尤もなるものであつた。この娯楽が変じて実行となつた事も少なくないので、彼等は双互の為めに口《くち》にした凡ての言葉には、娯楽どころか、常に一種の犠牲を含んでゐると確信してゐた。さうして其犠牲を即座に払へば、娯楽の性質が、忽然苦痛に変ずるものであると云ふ陳腐な事実にさへ気が付かずにゐた。一年の後平岡は結婚した。同時に、自分の勤《つと》めてゐる銀行の、京坂地方のある支店詰になつた。代助は、出立《しつたつ》の当時、新夫婦を新橋の停車場に送つて、愉快さうに、直《ぢき》帰つて来給《きたま》へと平岡の手を握つた。平岡は、仕方がない、当分辛抱するさと打遣る様に云つたが、其|眼鏡《めがね》の裏には得意の色が羨ましい位動いた。それを見た時、代助は急に此友達を憎らしく思つた。家《うち》へ帰つて、一日《いちにち》部屋に這入つたなり考へ込んでゐた。嫂《あによめ》を連れて音楽会へ行く筈《はづ》の所を断わつて、大いに嫂《あによめ》に気を揉ました位である。
平岡からは断えず音信《たより》があつた。安着の端書《はがき》、向ふ
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