した。梅子は笑《わら》つて酒《さけ》を注《つ》いだ。
「嫁《よめ》の事か」と誠吾が聞《き》いた。
「まあ、左《さ》うだらうと思ふんです」
「貰《もら》つて置《お》くがいゝ。さう老人《としより》に心配さしたつて仕様があるものか」と云つたが、今度はもつと判然《はつきり》した語勢で、
「気を付《つ》けないと不可《いかん》よ。少し低気圧が来《き》てゐるから」と注意した。代助は立《た》ち掛けながら、
「まさか此間中《このあひだぢう》の奔走からきた低気圧ぢやありますまいね」と念を押した。兄《あに》は寐転んだ儘、
「何《なん》とも云へないよ。斯う見えて、我々も日糖の重役と同じ様に、何時《いつ》拘引されるか分《わか》らない身体《からだ》なんだから」と云つた。
「馬鹿な事を仰《おつ》しやるなよ」と梅子が窘《たしな》めた。
「矢っ張り僕《ぼく》ののらくらが持ち来《き》たした低気圧なんだらう」と代助は笑ひながら立つた。
九の三
廊下|伝《づた》ひに中庭《なかには》を越《こ》して、奥《おく》へ来《き》て見ると、父《ちゝ》は唐机《とうづくえ》の前《まへ》へ坐《すは》つて、唐本《とうほん》を見
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