のだが、其甲斐はなかつた。
 仕舞にアンニユイを感じ出《だ》した。何処《どこ》か遊びに行く所はあるまいかと、娯楽案内を捜《さが》して、芝居でも見やうと云ふ気を起した。神楽坂から外濠《そとぼり》線へ乗つて、御茶の水《みづ》迄|来《く》るうちに気が変《かは》つて、森川丁にゐる寺尾といふ同窓の友達を尋ねる事にした。此男は学校を出ると、教師は厭《いや》だから文学を職業とすると云ひ出して、他《ほか》のものゝ留めるにも拘らず、危険な商買をやり始めた。やり始めてから三年になるが、未だに名声も上《あが》らず、窮々《きう/\》云つて原稿生活を持続してゐる。自分の関係のある雑誌に、何《なん》でも好《い》いから書けと逼《せま》るので、代助は一度面白いものを寄草した事がある。それは一ヶ月の間雑誌屋の店頭に曝《さら》されたぎり、永久人間世界から何処《どこ》かへ、運命の為めに持つて行かれて仕舞つた。それぎり代助は筆を執る事を御免蒙つた。寺尾は逢ふたんびに、もつと書け書けと勧める。さうして、己《おれ》を見ろと云ふのが口癖《くちくせ》であつた。けれども外《ほか》の人《ひと》に聞《き》くと、寺尾ももう陥落《かんらく》す
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