て梅子が、
「もう廃《よ》しませう。彼方《あつち》へ行《い》つて、御飯《ごはん》でも食《たべ》ませう。叔父《おぢ》さんもゐらつしやい」と云ひながら立つた。部屋のなかはもう薄暗《うすぐら》くなつてゐた。代助は先刻《さつき》から、ピヤノの音《おと》を聞いて、嫂《あによめ》や姪《めい》の白い手の動《うご》く様子を見て、さうして時々《とき/″\》は例の欄間《らんま》の画《ゑ》を眺《なが》めて、三千代《みちよ》の事も、金《かね》を借《か》りる事も殆んど忘れてゐた。部屋を出《で》る時、振り返つたら、紺青《こんじやう》の波《なみ》が摧《くだ》けて、白く吹き返《かへ》す所|丈《だけ》が、暗《くら》い中《なか》に判然《はつきり》見えた。代助は此|大濤《おほなみ》の上《うへ》に黄金色《こがねいろ》の雲《くも》の峰《みね》を一面に描《か》かした。さうして、其|雲《くも》の峰《みね》をよく見ると、真裸《まはだか》な女性《によせう》の巨人《きよじん》が、髪《かみ》を乱《みだ》し、身を躍《おど》らして、一団となつて、暴《あ》れ狂つてゐる様《やう》に、旨《うま》く輪廓を取《と》らした。代助は※[#濁点付き片仮名ワ、
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