た。三千代《みちよ》も支度《したく》をするから、緩《ゆつく》りして行《い》つて呉《く》れと頼《たの》む様に留《と》めて、次《つぎ》の間《ま》へ立《た》つた。代助は其|後姿《うしろすがた》を見て、どうかして金《かね》を拵《こしら》へてやりたいと思つた。
「君|何所《どこ》か奉公|口《ぐち》の見当は付《つ》いたか」と聞いた。
「うん、まあ、ある様な無《な》い様なもんだ。無《な》ければ当分|遊《あそ》ぶ丈の事だ。緩《ゆつ》くり探《さが》してゐるうちには何《ど》うかなるだらう」
云ふ事は落ち付《つ》いてゐるが、代助が聞《き》くと却つて焦《あせ》つて探《さが》してゐる様にしか取れない。代助は、昨日《きのふ》兄《あに》と自分の間に起つた問答の結果を、平岡に知らせやうと思つてゐたのだが、此一言を聞いて、しばらく見合せる事にした。何だか、構《かま》へてゐる向ふの体面を、わざと此方《こつち》から毀損する様な気がしたからである。其上《そのうへ》金《かね》の事に付《つ》いては平岡からはまだ一言《いちげん》の相談も受けた事もない。だから表向《おもてむき》挨拶をする必要もないのである。たゞ、斯《か》うして黙《
前へ
次へ
全490ページ中124ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング