だま》つてゐれば、平岡からは、内心で、冷淡な奴《やつ》だと悪《わる》く思はれるに極《きま》つてゐる。けれども今《いま》の代助はさう云ふ非難に対して、殆んど無感覚である。又実際自分はさう熱烈な人間《にんげん》ぢやないと考へてゐる。三四年前の自分になつて、今の自分を批判して見れば、自分は、堕落してゐるかも知れない。けれども今の自分から三四年前の自分を回顧して見ると、慥かに、自己の道念を誇張して、得意に使ひ回《まは》してゐた。渡金《めつき》を金《きん》に通用させ様とする切《せつ》ない工面より、真鍮を真鍮で通《とほ》して、真鍮相当の侮蔑を我慢する方が楽《らく》である。と今は考へてゐる。
代助が真鍮を以て甘《あま》んずる様になつたのは、不意に大きな狂瀾に捲き込まれて、驚ろきの余り、心機一転の結果を来《き》たしたといふ様な、小説じみた歴史を有《も》つてゐる為《ため》ではない。全く彼れ自身に特有な思索と観察の力によつて、次第々々に渡金《めつき》を自分で剥がして来《き》たに過《す》ぎない。代助は此|渡金《めつき》の大半をもつて、親爺《おやぢ》が捺摺《なす》り付けたものと信じてゐる。其|時分《じぶん》
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