六の五

 三千代《みちよ》は小供《こども》の着物《きもの》を膝の上《うへ》に乗《の》せた儘、返事もせずしばらく俯向《うつむ》いて眺めてゐたが、
「貴方《あなた》のと同《おんな》じに拵《こしら》へたのよ」と云つて夫《おつと》の方を見た。
「是《これ》か」
 平岡は絣《かすり》の袷《あはせ》の下《した》へ、ネルを重《かさ》ねて、素肌《すはだ》に着《き》てゐた。
「是《これ》はもう不可《いか》ん。暑《あつ》くて駄目《だめ》だ」
 代助は始《はじ》めて、昔《むかし》の平岡《ひらをか》を当面《まのあたり》に見《み》た。
「袷《あはせ》の下《した》にネルを重《かさ》ねちやもう暑《あつ》い。繻絆にすると可《い》い」
「うん、面倒だから着《き》てゐるが」
「洗濯をするから御|脱《ぬ》ぎなさいと云つても、中々《なか/\》脱《ぬ》がないのよ」
「いや、もう脱《ぬ》ぐ、己《おれ》も少々|厭《いや》になつた」
 話《はなし》は死《し》んだ小供《こども》の事をとう/\離《はな》れて仕舞つた。さうして、来《き》た時よりは幾分か空気に暖味《あたゝかみ》が出来《でき》た。平岡は久し振りに一杯飲まうと云ひ出《だ》し
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