うして、肉の臭《にほ》ひがしやしないか」
「しますな。大いに」
 代助は黙《だま》つて仕舞つた。

       六の二

 紅茶々碗を持つた儘、書斎へ引き取つて、椅子へ腰《こし》を懸けて、茫然《ぼんやり》庭《には》を眺《なが》めてゐると、瘤《こぶ》だらけの柘榴《ざくろ》の枯枝《かれえだ》と、灰色《はいいろ》の幹《みき》の根方《ねがた》に、暗緑《あんりよく》と暗紅《あんかう》を混《ま》ぜ合《あ》はした様な若《わか》い芽が、一面に吹き出《だ》してゐる。代助の眼《め》には夫《それ》がぱつと映《えい》じた丈で、すぐ刺激を失つて仕舞つた。
 代助の頭《あたま》には今具体的な何物をも留《とゞ》めてゐない。恰かも戸外《こぐわい》の天気の様に、それが静《しづ》かに凝《じつ》と働《はた》らいてゐる。が、其底には微塵《みじん》の如き本体の分らぬものが無数に押し合つてゐた。乾酪《ちいず》の中《なか》で、いくら虫《むし》が動《うご》いても、乾酪《ちいず》が元《もと》の位置にある間《あひだ》は、気が付かないと同じ事で、代助も此|微震《びしん》には殆んど自覚を有してゐなかつた。たゞ、それが生理的に反射して来《く
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