やにん》が明日《あす》引越すといふ間際になつても、まだ調達が出来ないとか云つて、矢っ張り藤野から泣き付いて来《き》た事がある。然し是も断《ことわ》らした。夫でも別《べつ》に不都合はなく敷金は返せてゐる。――まだ其外にもあつたが、まあ斯《こ》んな種類の例ばかりであつた。
「そりや、姉《ねえ》さんが蔭《かげ》へ廻《まわ》つて恵《めぐ》んでゐるに違《ちがひ》ない。ハヽヽヽ。兄《にい》さんも余っ程呑気だなあ」
と代助は大きい声を出して笑つた。
「何《なに》、そんな事があるものか」
誠吾は矢張当り前の顔をしてゐた。さうして前にある猪口を取つて口《くち》へ持つて行つた。
六の一
其日誠吾は中々《なか/\》金《かね》を貸して遣《や》らうと云はなかつた。代助も三千代《みちよ》が気の毒だとか、可哀想だとか云ふ泣言《なきごと》は、可成避ける様にした。自分が三千代に対してこそ、さう云ふ心持もあるが、何にも知らない兄《あに》を、其所《そこ》迄|連《つ》れて行くのには一通りでは駄目だと思ふし、と云つて、無暗にセンチメンタルな文句を口《くち》にすれば、兄《あに》には馬鹿にされる、ばかりではな
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