であつた。
二人《ふたり》は好《い》い心持《こゝろもち》に酒を飲《の》んだ。兄《あに》は飲《の》んで、食《く》つて、世間話《せけんばなし》をすれば其|外《ほか》に用はないと云ふ態度《たいど》であつた。代助も、うつかりすると、肝心の事件を忘《わす》れさうな勢であつた。が下女が三本目の銚子を置いて行つた時に、始めて用談に取り掛《かゝ》つた。代助の用談と云ふのは、言ふ迄もなく、此間|三千代《みちよ》から頼《たの》まれた金策の件である。
実を云ふと、代助は今日迄まだ誠吾に無心を云つた事がない。尤も学校を出た時少々芸者買をし過《す》ぎて、其尻を兄《あに》になすり付けた覚はある。其時|兄《あに》は叱るかと思ひの外《ほか》、さうか、困り者だな、親爺《おやぢ》には内々で置けと云つて嫂《あによめ》を通《とほ》して、奇麗に借金を払つてくれた。さうして代助には一口《ひとくち》の小言《こごと》も云はなかつた。代助は其時から、兄《あにき》に恐縮して仕舞つた。其後《そののち》小遣《こづかひ》に困《こま》る事はよくあるが、困るたんびに嫂《あによめ》を痛《いた》めて事を済ましてゐた。従つて斯《か》う云ふ事件に関し
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