》も早く君に独立して貰《もら》ひたいでせうがね」
「左様《さう》かも知れませんな」
「君は余つ程気楽な性分《しやうぶん》と見える。それが本当の所なんですか」
「えゝ、別に嘘《うそ》を吐《つ》く料簡もありませんな」
「ぢや全くの呑気《のんき》屋なんだね」
「えゝ、まあ呑気《のんき》屋つて云ふもんでせうか」
「兄《にい》さんは何歳《いくつ》になるんです」
「斯《か》うつと、取つて六《ろく》になりますか」
「すると、もう細君でも貰はなくちやならないでせう。兄《にい》さんの細君が出来ても、矢っ張り今の様にしてゐる積ですか」
「其時に為《な》つて見なくつちや、自分でも見当が付きませんが、何《なに》しろ、どうか為《な》るだらうと思つてます」
「其外《そのほか》に親類はないんですか」
「叔母《おば》が一人《ひとり》ありますがな。こいつは今、浜《はま》で運漕業をやつてます」
「叔母《おば》さんが?」
「叔母《おば》が遣《や》つてる訳でもないんでせうが、まあ叔父《おぢ》ですな」
「其所《そこ》へでも頼《たの》んで使つて貰《もら》つちや、どうです。運漕業なら大分|人《ひと》が要《い》るでせう」
「根が怠惰
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