《なまけ》もんですからな。大方断わるだらうと思つてるんです」
「さう自任してゐちや困る。実は君の御母《おつか》さんが、家《うち》の婆さんに頼んで、君を僕の宅《うち》へ置いて呉れまいかといふ相談があるんですよ」
「えゝ、何だかそんな事を云つてました」
「君自身は、一体どう云ふ気なんです」
「えゝ、成るべく怠《なま》けない様にして……」
「家《うち》へ来《く》る方が好《い》いんですか」
「まあ、左様《さう》ですな」
「然し寐て散歩する丈ぢや困る」
「そりや大丈夫です。身体《からだ》の方は達者ですから。風呂でも何でも汲みます」
「風呂は水道があるから汲まないでも可《い》い」
「ぢや、掃除でもしませう」
門野《かどの》は斯う云ふ条件で代助の書生になつたのである。
一の四
代助はやがて食事を済まして、烟草を吹《ふ》かし出した。今迄茶|箪笥《だんす》の陰《かげ》に、ぽつねんと膝《ひざ》を抱《かゝ》へて柱に倚《よ》り懸《かゝ》つてゐた門野《かどの》は、もう好《い》い時分だと思つて、又主人に質問を掛《か》けた。
「先生、今朝《けさ》は心臓の具合はどうですか」
此間《このあひだ》
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