本望なのです。今日《けふ》斯《こ》うやつて、貴方《あなた》を呼んで、わざ/\自分の胸を打ち明けるのも、実は貴方《あなた》から復讐《ふくしう》されてゐる一部分としか思やしません。僕は是で社会的に罪を犯したも同じ事です。然し僕はさう生れて来《き》た人間《にんげん》なのだから、罪を犯す方が、僕には自然なのです。世間に罪を得ても、貴方《あなた》の前に懺悔《ざんげ》する事が出来れば、夫で沢山なんです。是程嬉しい事はないと思つてゐるんです」
十四の十一
三千代は涙《なみだ》の中《なか》で始《はじ》めて笑つた。けれども一言《ひとこと》も口《くち》へは出《だ》さなかつた。代助は猶己れを語る隙《ひま》を得た。――
「僕は今更こんな事を貴方《あなた》に云ふのは、残酷だと承知してゐます。それが貴方《あなた》に残酷に聞えれば聞える程僕は貴方《あなた》に対して成功したも同様になるんだから仕方がない。其上僕はこんな残酷な事を打ち明けなければ、もう生きてゐる事が出来なくなつた。つまり我儘《わがまゝ》です。だから詫《あやま》るんです」
「残酷では御座いません。だから詫《あや》まるのはもう廃《よ》して頂戴」
三千代の調子は、此時急に判然《はつきり》した。沈《しづ》んではゐたが、前に比べると非常に落ち着《つ》いた。然ししばらくしてから、又
「たゞ、もう少し早く云つて下《くだ》さると」と云ひ掛けて涙ぐんだ。代助は其時斯う聞いた。――
「ぢや僕が生涯|黙《だま》つてゐた方が、貴方《あなた》には幸福だつたんですか」
「左様《さう》ぢやないのよ」と三千代は力を籠めて打ち消した。「私《わたくし》だつて、貴方《あなた》が左様《さう》云つて下《くだ》さらなければ、生きてゐられなくなつたかも知れませんわ」
今度は代助の方が微笑した。
「夫《それ》ぢや構はないでせう」
「構《かま》はないより難有いわ。たゞ――」
「たゞ平岡に済《す》まないと云ふんでせう」
三千代は不安らしく首肯《うなづ》いた。代助は斯う聞いた。――
「三千代さん、正直に云つて御覧。貴方《あなた》は平岡を愛してゐるんですか」
三千代は答へなかつた。見るうちに、顔の色が蒼くなつた。眼《め》も口《くち》も固《かた》くなつた。凡てが苦痛の表情であつた。代助は又聞いた。
「では、平岡は貴方《あなた》を愛してゐるんですか」
三千代は矢
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