云ひ、声の低《ひく》い底《そこ》に籠《こも》る力《ちから》と云ひ、此所《こゝ》迄押し逼《せま》つて来《き》た前後の関係と云ひ、凡ての点から云つて、梅子をはつと思はせない訳に行かなかつた。嫂《あによめ》は此|短《みじか》い句《く》を、閃《ひら》めく懐剣の如くに感じた。
 代助は帯《おび》の間《あひだ》から時計を出して見た。父《ちゝ》の所へ来《き》てゐる客は中々《なか/\》帰りさうにもなかつた。空《そら》は又|曇《くも》つて来《き》た。代助は一旦引き上《あ》げて又|改《あら》ためて、父《ちゝ》と話《はなし》を付《つ》けに出直《でなほ》す方が便宜だと考《かんが》へた。
「僕は又|来《き》ます。出直《でなほ》して来《き》て御父《おとう》さんに御目に掛《かゝ》る方が好《い》いでせう」と立ちにかかつた。梅子は其|間《あひだ》に回復した。梅子は飽く迄人の世話を焼く実意のある丈に、物を中途で投《な》げる事の出来ない女であつた。抑《おさ》える様に代助を引《ひ》き留《と》めて、女の名を聞いた。代助は固より答へなかつた。梅子は是非にと逼つた。代助は夫《それ》でも応じなかつた。すると梅子は何故《なぜ》其女を貰《もら》はないのかと聞き出《だ》した。代助は単純に貰《もら》へないから、貰《もら》はないのだと答へた。梅子は仕舞に涙を流した。他《ひと》の尽力を出《だ》し抜《ぬ》いたと云つて恨んだ。何故《なぜ》始《はじめ》から打ち明けて話さないかと云つて責めた。かと思ふと、気の毒だと云つて同情して呉れた。けれども代助は三千代に就ては、遂に何事も語《かた》らなかつた。梅子はとう/\我《が》を折つた。代助の愈《いよ/\》帰ると云ふ間際《まぎは》になつて、
「ぢや、貴方《あなた》から直《ぢか》に御父《おとう》さんに御話《おはなし》なさるんですね。それ迄は私《わたくし》は黙《だま》つてゐた方が好《い》いでせう」と聞いた。代助は黙《だま》つてゐて貰《もら》ふ方が好《い》いか、話《はな》して貰《もら》ふ方が好《い》いか、自分にも分《わか》らなかつた。
「左様《さう》ですね」と※[#「足へん+厨」、第3水準1−92−39]躇《ちうちよ》したが、「どうせ、断《ことわ》りに来《く》るんだから」と云つて嫂《あによめ》の顔《かほ》を見《み》た。
「ぢや、若《も》し話《はな》す方が都合が好《よ》ささうだつたら話《はな》しませ
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