んだつて、小供ぢやないから、一人前《いちにんまへ》の考の御有《おあり》な事は勿論ですわ。私《わたし》なんぞの要《い》らない差出口《さしでぐち》は御迷惑でせうから、もう何にも申しますまい。然し御|父《とう》さんの身になつて御覧なさい。月々《つき/″\》の生活費は貴方《あなた》の要《い》ると云ふ丈今でも出《だ》して入《い》らつしやるんだから、つまり貴方《あなた》は書生時代よりも余計|御父《おとう》さんの厄介になつてる訳《わけ》でせう。さうして置いて、世話になる事は、元《もと》より世話になるが、年を取つて一人前《いちにんまへ》になつたから、云ふ事は元《もと》の通りには聞《き》かれないつて威張つたつて通用しないぢやありませんか」
 梅子は少し激したと見えて猶も云ひ募らうとしたのを、代助が遮つた。
「だつて、女房を持てば此|上《うへ》猶御|父《とう》さんの厄介に為《な》らなくつちや為《な》らないでせう」
「宜《い》いぢやありませんか、御父《おとう》さんが、其方《そのほう》が好《い》いと仰しやるんだから」
「ぢや、御父《おとう》さんは、いくら僕の気に入らない女房でも、是非|持《も》たせる決心なんですね」
「だつて、貴方《あなた》に好《す》いたのがあればですけれども、そんなのは日本中|探《さが》して歩《ある》いたつて無《な》いんぢやありませんか」
「何《ど》うして、夫《それ》が分《わか》ります」
 梅子は張《はり》の強い眼《め》を据ゑて、代助を見た。さうして、
「貴方《あなた》は丸で代言人の様な事を仰しやるのね」と云つた。代助は蒼白《あをじろ》くなつた額《ひたひ》を嫂《あによめ》の傍《そば》へ寄《よ》せた。
「姉《ねえ》さん、私《わたし》は好《す》いた女があるんです」と低《ひく》い声で云ひ切つた。

       十四の五

 代助は今迄冗談に斯んな事を梅子に向つて云つた事が能くあつた。梅子も始めはそれを本気に受けた。そつと手を廻《まは》して真相を探つて見た抔といふ滑稽もあつた。事実が分つて以後は、代助の所謂|好《す》いた女は、梅子に対して一向|利目《きゝめ》がなくなつた。代助がそれを云ひ出《だ》しても、丸で取り合はなかつた。でなければ、茶化してゐた。代助の方でも夫《それ》で平気であつた。然し此場合丈は彼《かれ》に取つて、全く特別であつた。顔付《かほつき》と云ひ、眼付《めつき》と
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