なかつた。不可解《ふかかい》の眼《め》を挙《あ》げて梅子を見た。梅子は始めて自分の本意を布衍しに掛《か》かつた。
「つまり、貴方《あなた》だつて、何時《いつ》か一度は、御奥さんを貰《もら》ふ積《つもり》なんでせう。厭《いや》だつて、仕方がないぢやありませんか。其様《さう》何時迄《いつまで》も我儘を云つた日には、御父《おとう》さんに済《す》まない丈ですわ。だからね。何《ど》うせ誰《だれ》を持《も》つて行《い》つても気《き》に入らない貴方《あなた》なんだから、つまり誰《だれ》を持《も》たしたつて同《おんな》じだらうつて云ふ訳なんです。貴方《あなた》には何《ど》んな人《ひと》を見せても駄目なんですよ。世の中《なか》に一人《ひとり》も気に入る様なものは生きてやしませんよ。だから、奥さんと云ふものは、始《はじ》めから気に入らないものと、諦《あき》らめて貰ふより外に仕方がないぢやありませんか。だから私《わたし》達が一番|好《い》いと思ふのを、黙《だま》つて貰《もら》へば、夫で何所《どこ》も彼所《かしこ》も丸く治《おさ》まつちまふから、――だから、御父《おとう》さんが、殊によると、今度《こんど》は、貴方《あなた》に一から十迄相談して、何《なに》か為《な》さらないかも知れませんよ。御父《おとう》さんから見れば夫《それ》が当り前ですもの。さうでも、為《し》なくつちや、生《い》きてる内《うち》に、貴方《あなた》の奥《おく》さんの顔を見る事は出来ないぢやありませんか」
 代助は落ち付いて嫂《あによめ》の云ふ事を聴《き》いてゐた。梅子《うめこ》の言葉が切れても、容易に口《くち》を動《うご》かさなかつた。若《も》し反駁《はんぱく》をする日には、話《はなし》が段々込み入る許《ばかり》で、此方《こちら》の思ふ所は決して、梅子の耳へ通らないと考へた。けれども向ふの云ひ分《ぶん》を肯《うけが》ふ気は丸でなかつた。実際問題として、双方が困《こま》る様になる許《ばかり》と信じたからである。それで、嫂《あによめ》に向つて、
「貴方《あなた》の仰《おつ》しやる所も、一理あるが、私《わたし》にも私《わたし》の考があるから、まあ打遣《うちや》つて置《お》いて下《くだ》さい」と云つた。其調子には梅子《うめこ》の干渉を面倒がる気色《けしき》が自然と見えた。すると梅子は黙《だま》つてゐなかつた。
「そりや代《だい》さ
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