《おとう》さんに逢《あ》ひに来《き》たんですが、今《いま》御客《おきやく》の様だから、序《ついで》と云つては失礼だが、貴方《あなた》にも御話《おはなし》をして置きます」
 梅子は代助の様子が真面目なので、何時《いつ》もの如く無駄|口《くち》も入れずに聞いてゐたが、聞き終つた時、始めて自分の意見を述べた。それが極《きわ》めて簡単《かんたん》な且つ極《きわ》めて実際的な短かい句であつた。
「でも、御父《おとう》さんは屹度御困りですよ」
「御父《おとう》さんには僕が直《ぢか》に話すから構ひません」
「でも、話《はなし》がもう此所《こゝ》迄|進《すゝ》んでゐるんだから」
「話が何所《どこ》迄進んでゐやうと、僕はまだ貰《もら》ひますと云つた事はありません」
「けれども判然《はつきり》貰《もら》はないとも仰しやらなかつたでせう」
「それを今云ひに来《き》た所です」
 代助と梅子は向《むか》ひ合《あ》つたなり、しばらく黙《だま》つた。

       十四の四

 代助の方では、もう云ふ可《べ》き事《こと》を云ひ尽《つ》くした様な気がした。少《すく》なくとも、是《これ》より進《すゝ》んで、梅子に自分を説明しやうといふ考は丸で無《な》かつた。梅子は語《かた》るべき事《こと》、聞《き》くべき事《こと》を沢山《たくさん》持《も》つてゐた。たゞ夫《それ》が咄嗟《とつさ》の間《あひだ》に、前《まへ》の問答《もんどう》に繋《つな》がり好《よ》く、口《くち》へ出《で》て来《こ》なかつたのである。
「貴方《あなた》の知《し》らない間《ま》に、縁談が何《ど》れ程|進《すゝ》んだのか、私《わたし》にも能《よ》く分《わか》らないけれど、誰《だれ》にしたつて、貴方《あなた》が、さう的確《きつぱり》御断《おことわ》りなさらうとは思ひ掛《が》けないんですもの」と梅子は漸《やうや》くにして云つた。
「何故《なぜ》です」と代助は冷《ひやゝ》かに落《お》ち付《つ》いて聞《き》いた。梅子は眉を動《うご》かした。
「何故《なぜ》ですつて聞《き》いたつて、理窟ぢやありませんよ」
「理窟でなくつても構《かま》はないから話《はな》して下《くだ》さい」
「貴方《あなた》の様にさう何遍|断《ことわ》つたつて、詰《つま》り同《おんな》じ事ぢやありませんか」と梅子は説明した。けれども、其意味がすぐ代助の頭《あたま》には響《ひゞ》か
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