う。もし又|悪《わ》るい様だつたら、何にも云はずに置くから、貴方《あなた》が始《はじめ》から御話《おはなし》なさい。夫《それ》が宜《い》いでせう」と梅子は親切に云つて呉れた。代助は、
「何分《なにぶん》宜《よろ》しく」と頼《たの》んで外《そと》へ出《で》た。角《かど》へ来《き》て、四谷《よつや》から歩《ある》く積《つもり》で、わざと、塩《しほ》町|行《ゆき》の電車に乗《の》つた。練兵場の横《よこ》を通るとき、重《おも》い雲《くも》が西で切れて、梅雨《つゆ》には珍《めづ》らしい夕《せき》陽が、真赤《まつか》になつて広《ひろ》い原《はら》一面《いちめん》を照《て》らしてゐた。それが向《むかふ》を行《ゆ》く車《くるま》の輪《わ》に中《あた》つて、輪《わ》が回《まは》る度《たび》に鋼鉄《はがね》の如く光《ひか》つた。車《くるま》は遠い原《はら》の中《なか》に小《ちい》さく見えた。原《はら》は車《くるま》の小《ちい》さく見《み》える程、広《ひろ》かつた。日《ひ》は血《ち》の様に毒々しく照《て》つた。代助は此光|景《けい》を斜《なゝ》めに見《み》ながら、風《かぜ》を切《き》つて電車に持つて行《い》かれた。重《おも》い頭《あたま》の中《なか》がふら/\した。終点迄|来《き》た時は、精神が身体《からだ》を冒《おか》したのか、精神の方が身体《からだ》に冒されたのか、厭《いや》な心持がして早く電車を降《お》りたかつた。代助は雨《あめ》の用心に持つた蝙蝠傘《かうもりがさ》を、杖の如く引き摺《ず》つて歩《ある》いた。
 歩《ある》きながら、自分《じぶん》は今日《けふ》、自《みづか》ら進んで、自分の運命の半分《はんぶん》を破壊したのも同じ事だと、心のうちに囁《つぶや》いだ。今迄は父《ちゝ》や嫂《あによめ》を相手に、好い加減な間隔《かんかく》を取つて、柔らかに自我を通《とほ》して来《き》た。今度は愈本性を露《あら》はさなければ、それを通し切れなくなつた。同時に、此方面に向つて、在来の満足を求《もと》め得る希望は少なくなつた。けれども、まだ逆戻りをする余地はあつた。たゞ、夫《それ》には又|父《ちゝ》を胡魔化す必要が出て来るに違なかつた。代助は腹の中で今迄の我《われ》を冷笑した。彼は何《ど》うしても、今日《けふ》の告白を以て、自己の運命の半分を破壊したものと認めたかつた。さうして、それから受ける打
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