とりごと》の様に云つたが、別に梅子の返事を予期する気もなかつたので、代助は向《むかふ》の顔《かほ》も見ず、たゞ畳の上《うへ》に置いてある新聞《しんぶん》に眼《め》を落《おと》した。すると梅子は忽ち、
「何《なん》ですつて」と切《き》り込む様に云つた。代助の眼《め》が、其調子に驚ろいて、ふと自分の方に視線を移した時、
「だから、貴方《あなた》が奥さんを御貰《おもら》ひなすつたら、始終|宅《うち》に許《ばかり》ゐて、たんと可愛《かあい》がつて御上《おあ》げなさいな」と云つた。代助は始めて相手が梅子であつて、自分が平生の代助でなかつた事を自覚した。それで成るべく不断《ふだん》の調子を出《だ》さうと力《つと》めた。

       十四の三

 けれども、代助の精神は、結婚謝絶と、其謝絶に次《つ》いで起るべき、三千代と自分の関係にばかり注《そゝ》がれてゐた。従つて、いくら平生の自分に帰つて、梅子の相手になる積でも、梅子の予期してゐない、変つた音色《ねいろ》が、時々《とき/″\》会話の中《なか》に、思はず知らず出《で》て来《き》た。
「代さん、貴方《あなた》今日《けふ》は何《ど》うかしてゐるのね」と仕舞に梅子が云つた。代助は固《もと》より嫂《あによめ》の言葉を側面《そくめん》へ摺《ず》らして受ける法をいくらでも心得てゐた。然るに、それを遣《や》るのが、軽薄の様で、又面倒な様で、今日《けふ》は厭《いや》になつた。却《かへ》つて真面目《まじめ》に、何処《どこ》が変《へん》か教へて呉れと頼《たの》んだ。梅子は代助の問《とひ》が馬鹿気てゐるので妙な顔をした。が、代助が益《ます/\》頼《たの》むので、では云つて上《あ》げませうと前置をして、代助の何《ど》うかしてゐる例を挙げ出した。梅子は勿論わざと真面目《まじめ》を装つてゐるものと代助を解釈した。其中《そのなか》に、
「だつて、兄《にい》さんが留守勝《るすがち》で、嘸御|淋《さむ》しいでせうなんて、あんまり思遣《おもひや》りが好過《よす》ぎる事を仰《おつ》しやるからさ」と云ふ言葉があつた。代助は其所《そこ》へ自分を挟《はさ》んだ。
「いや、僕の知つた女《をんな》に、左様《さう》云ふのが一人《ひとり》あつて、実《じつ》は甚だ気の毒だから、つい他《ほか》の女《をんな》の心持《こゝろもち》も聞《き》いて見たくなつて、伺《うかゞ》つたんで、決し
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