「うん。まあ、好《い》い加減《かげん》にやつてるさ」
斯う云つた平岡は、急に調子を落《おと》して、極《きわ》めて気のない返事をした。代助は夫限《それぎり》食《く》ひ込《こ》めなくなつた。已《やむ》を得ず、
「不断《ふだん》は今頃《いまごろ》もう家《うち》へ帰《かへ》つてゐるんだらう。此間《このあひだ》僕が訪《たづ》ねた時は大分《だいぶ》遅《おそ》かつた様だが」と聞いた。すると、平岡は矢張《やはり》問題を回避《くわいひ》する様な語気で、
「まあ帰つたり、帰《かへ》らなかつたりだ。職業が斯《か》う云ふ不規則な性質だから、仕方がないさ」と、半ば自分を弁護するためらしく、曖昧に云つた。
「三千代さんは淋《さむ》しいだらう」
「なに大丈夫だ。彼奴《あいつ》も大分《だいぶ》変《かは》つたからね」と云つて、平岡は代助を見た。代助は其|眸《ひとみ》の内《うち》に危《あや》しい恐れを感じた。ことによると、此夫婦の関係は元《もと》に戻《もど》せないなと思つた。もし此夫婦が自然の斧《おの》で割《さ》き限《きり》に割《さ》かれるとすると、自分の運命は取《と》り帰《かへ》しの付《つ》かない未来を眼《め》の前《まへ》に控えてゐる。夫婦が離れゝば離れる程、自分《じぶん》と三千代はそれ丈接近しなければならないからである。代助は即座《そくざ》の衝動《しやうどう》の如《ごと》くに云つた。――
「そんな事が、あらう筈《はづ》がない。いくら、変《かは》つたつて、そりや唯《たゞ》年《とし》を取《と》つた丈の変化だ。成るべく帰《かへ》つて三千代さんに安慰を与へて遣《や》れ」
「君はさう思ふか」と云ひさま平岡はぐいと飲んだ。代助は、たゞ、
「思ふかつて、誰《だれ》だつて左様《さう》思はざるを得んぢやないか」と半ば口《くち》から出任《でまか》せに答へた。
「君は三千代を三年|前《まへ》の三千代と思つてるか。大分《だいぶ》変つたよ。あゝ、大分《だいぶ》変《かは》つたよ」と平岡は又ぐいと飲《の》んだ。代助は覚《おぼ》えず胸《むね》の動|悸《き》を感じた。
「同《おん》なじだ、僕《ぼく》の見る所では全く同《おんな》じだ。少《すこ》しも変《かは》つてゐやしない」
「だつて、僕は家《うち》へ帰つても面白《おもしろ》くないから仕方がないぢやないか」
「そんな筈《はづ》はない」
平岡は眼《め》を丸くして又代助を見た。代助
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