が」と代助は遂《つい》に云ひ出《だ》した。すると、平岡は急に様子を変へて、落ち付《つ》かない眼《め》を代助の上《うへ》に注《そゝ》いだが、卒然《そつぜん》として、
「そりや、僕も疾《と》うから、何《ど》うかする積《つもり》なんだけれども、今《いま》の所ぢや仕方《しかた》がない。もう少《すこ》し待つて呉れ玉へ。其代り君の兄《にい》さんや御父《おとつ》さんの事も、斯《か》うして書《か》かずにゐるんだから」と代助には意表な返事をした。代助は馬鹿馬鹿しいと云ふより、寧ろ一種の憎悪《ぞうお》を感じた。
「君《きみ》も大分《だいぶ》変《かは》つたね」と冷《ひやゝ》かに云つた。
「君《きみ》の変《かは》つた如《ごと》く変《かは》つちまつた。斯《か》う摺《す》れちや仕方《しかた》がない。だから、もう少《すこ》し待つて呉《く》れ給《たま》へ」と答へて、平岡はわざとらしい笑《わら》ひ方《かた》をした。

       十三の七

 代助は平岡の言語《げんご》の如何《いかん》に拘《かゝ》はらず、自分の云ふ事丈は云はうと極《き》めた。なまじい、借金の催促に来《き》たんぢやない抔と弁明《べんめい》すると、又平岡が其|裏《うら》を行《ゆ》くのが癪《しやく》だから、向ふの疳違《かんちがひ》は、疳違《かんちがひ》で構《かま》はないとして置《お》いて、此方《こつち》は此方《こつち》の歩《ほ》を進める態度《たいど》に出《で》た。けれども第一に困《こま》つたのは、平岡の勝手|元《もと》の都合を、三千代の訴《うつた》へによつて知《し》つたと切《き》り出《だ》しては、三千代に迷惑《めいわく》が掛《かゝ》るかも知れない。と云つて、問題が其所《そこ》に触《ふ》れなければ、忠告も助言も全く無益である。代助は仕方《しかた》なしに迂回《うくわい》した。
「君《きみ》は近来|斯《か》う云ふ所へ大分《だいぶ》頻繁《ひんぱん》に出《で》はいりをすると見《み》えて、家《うち》のものとは、みんな御|馴染《なじみ》だね」
「君《きみ》の様に金回《かねまは》りが好《よ》くないから、さう豪遊も出来ないが、交際《つきあひ》だから仕方がないよ」と云つて、平岡は器用な手付《てつき》をして猪口《ちよく》を口《くち》へ着《つ》けた。
「余計な事だが、それで家《うち》の方《ほう》の経済は、収支|償《つぐ》なふのかい」と代助は思ひ切つて猛進した。
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