へ》に、昨夕《ゆふべ》着《き》た肌着《はだぎ》も単衣《ひとへ》も悉く改《あらた》めて気《き》を新《あらた》にした。外《そと》は寒暖計の度盛《どもり》の日を逐《お》ふて騰《あが》る頃《ころ》であつた。歩《ある》いてゐると、湿《しめ》つぽい梅雨《つゆ》が却つて待ち遠《とほ》しい程|熾《さか》んに日《ひ》が照《て》つた。代助は昨夕《ゆふべ》の反動で、此陽気な空気の中《なか》に落《お》ちる自分の黒《くろ》い影《かげ》が苦《く》になつた。広《ひろ》い鍔《つば》の夏帽《なつぼう》を被《かぶ》りながら、早く雨季《うき》に入れば好《い》いと云ふ心持があつた。其|雨季《うき》はもう二三|日《にち》の眼前《がんぜん》に逼《せま》つてゐた。彼《かれ》の頭《あたま》はそれを予報するかの様に、どんよりと重《おも》かつた。
 平岡の家《うち》の前《まへ》へ来《き》た時は、曇《くも》つた頭《あたま》を厚《あつ》く掩ふ髪《かみ》の根元《ねもと》が息切《いき》れてゐた。代助は家《いへ》に入る前《まへ》に先《ま》づ帽子を脱《ぬ》いだ。格子には締《しま》りがしてあつた。物音《ものおと》を目的《めあて》に裏《うら》へ回《まは》ると、三千代は下女と張物《はりもの》をしてゐた。物置《ものおき》の横《よこ》へ立《た》て掛《か》けた張板《はりいた》の中途《ちうと》から、細《ほそ》い首《くび》を前へ出《だ》して、曲《こゞ》みながら、苦茶《くちや》々々になつたものを丹念に引き伸《の》ばしつゝあつた手を留《と》めて、代助を見《み》た。一寸《ちよつと》は何《なん》とも云はなかつた。代助も、しばらくは唯《たゞ》立《た》つてゐた。漸くにして、
「又|来《き》ました」と云つた時《とき》、三千代は濡《ぬ》れた手を振《ふ》つて、馳け込む様に勝手から上《あ》がつた。同時に表《おもて》へ回《まは》れと眼《め》で合図をした。三千代は自分で沓脱《くつぬぎ》へ下《お》りて、格子の締《しまり》を外《はづ》しながら、
「無《ぶ》用|心《じん》だから」と云つた。今迄《いままで》日の透《とほ》る澄《す》んだ空気の下《した》で、手《て》を動《うご》かしてゐた所為《せゐ》で、頬《ほゝ》の所《ところ》が熱《ほて》つて見えた。それが額際《ひたひぎは》へ来《き》て何時《いつ》もの様に蒼白《あをしろ》く変《かは》つてゐる辺《あたり》に、汗《あせ》が少し煮染《に
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