とは違《ちが》つて、何《なに》か為《し》なくてはゐられない頭《あたま》の状態であつた。
彼は立ち上《あ》がつて、茶《ちや》の間《ま》へ来《き》て、畳んである羽織を又|引掛《ひつかけ》た。さうして玄関に脱《ぬ》ぎ棄てた下駄を穿《は》いて馳《か》け出《だ》す様に門を出《で》た。時は四時頃であつた。神楽坂《かぐらざか》を下《お》りて、当《あて》もなく、眼《め》に付《つ》いた第一の電車に乗《の》つた。車掌に行先《ゆくさき》を問はれたとき、口《くち》から出任《でまか》せの返事をした。紙入《かみいれ》を開《あ》けたら、三千代に遣《や》つた旅行費の余りが、三折《みつをり》の深底《ふかぞこ》の方にまだ這入つてゐた。代助は乗車券を買つた後《あと》で、札の数を調べて見た。
彼《かれ》は其晩を赤坂のある待合で暮《く》らした。其所《そこ》で面白い話《はなし》を聞《き》いた。ある若《わか》くて美くしい女が、去る男と関係して、其種《そのたね》を宿《やど》した所が、愈子を生《う》む段になつて、涙《なみだ》を零《こぼ》して悲《かな》しがつた。後《あと》から其訳を聞いたら、こんな年《とし》で子供を生《う》ませられるのは情《なさけ》ないからだと答へた。此女は愛を専《もつぱ》らにする時機が余り短か過《す》ぎて、親子《おやこ》の関係が容赦もなく、若い頭《あたま》の上《うへ》を襲つて来《き》たのに、一種の無定を感じたのであつた。それは無論|堅気《かたぎ》の女ではなかつた。代助は肉の美《び》と、霊《れい》の愛にのみ己《おの》れを捧げて、其他を顧みぬ女の心理状体として、此話を甚だ興味あるものと思つた。
十三の三
翌日《よくじつ》になつて、代助はとう/\又三千代に逢《あ》ひに行つた。其時|彼《かれ》は腹《はら》の中《なか》で、先達《せんだつ》て置《お》いて来《き》た金《かね》の事を、三千代が平岡に話したらうか、話《はな》さなかつたらうか、もし話《はな》したとすれば何《ど》んな結果を夫婦の上《うへ》に生じたらうか、それが気掛《きがゝ》りだからと云ふ口実を拵《こし》らえた。彼は此|気掛《きがゝり》が、自分を駆《か》つて、凝《じつ》と落ち付《つ》かれない様に、東西に引張回《ひつぱりまは》した揚句、遂《つい》に三千代の方に吹《ふ》き付《つ》けるのだと解釈した。
代助は家《いへ》を出《で》る前《ま
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