《ひ》いた様な気がした。待合所《まちあひじよ》に這入《はい》るや否や、梅子から顔色《かほいろ》が可《よ》くないと云ふ注意を受けた。代助は何《なん》にも答へずに、帽子を脱《ぬ》いで、時々《とき/″\》濡《ぬ》れた頭《あたま》を抑えた。仕舞には朝《あさ》奇麗《きれい》に分《わ》けた髪《かみ》がもぢや/\になつた。
プラツトフオームで高木は突然代助に向つて、
「何《ど》うです此汽車で、神戸迄遊びに行きませんか」と勧めた。代助はたゞ難有うと答へた丈であつた。愈《いよ/\》汽車の出《で》る間際《まぎは》に、梅子はわざと、窓際《まどぎは》に近寄《ちかよ》つて、とくに令嬢の名を呼んで、
「近《ちか》い内《うち》に又是非入らつしやい」と云つた。令嬢は窓《まど》のなかで、叮嚀に会釈したが、窓の外《そと》へは別段の言葉も聞《きこ》えなかつた。汽車を見送つて、又改札場を出た四人《よつた》りは、それぎり離れ/″\になつた。梅子は代助を誘つて青山へ連れて行かうとしたが、代助は頭《あたま》を抑えて応じなかつた。
車《くるま》に乗つてすぐ牛込へ帰《かへ》つて、それなり書斎へ這入つて、仰向《あほむけ》に倒れた。門野《かどの》は一寸《ちよつと》其様子を覗《のぞ》きに来《き》たが、代助の平生を知つてゐるので、言葉も掛けず、椅子に引《ひ》つ掛《か》けてある羽織丈を抱《かゝ》へて出《で》て行つた。
代助は寐《ね》ながら、自分の近き未来を何《ど》うなるものだらうと考へた。斯《か》うして打遣《うちや》つて置けば、是非共|嫁《よめ》を貰《もら》はなければならなくなる。嫁《よめ》はもう今迄《いままで》に大分《だいぶ》断《ことわ》つてゐる。此上|断《ことわ》れば、愛想を尽《つ》かされるか、本当に怒《おこ》り出《だ》されるか、何方《どつち》かになるらしい。もし愛想を尽《つ》かされて、結婚勧誘をこれ限《かぎ》り断念して貰《もら》へれば、それに越した事はないが、怒《おこ》られるのは甚だ迷惑である。と云つて、進まぬものを貰《もら》ひませうと云ふのは今代人《こんだいじん》として馬鹿気てゐる。代助は此《この》ヂレンマの間《あひだ》に※[#「彳+詆のつくり」、第3水準1−84−31]徊した。
彼は父と違《ちが》つて、当初からある計画を拵らえて、自然を其計画通りに強ひる古風な人《ひと》ではなかつた。彼は自然を以て人間の拵《
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