こしら》えた凡ての計画よりも偉大なものと信じてゐたからである。だから父《ちゝ》が、自分の自然に逆《さか》らつて、父《ちゝ》の計画通りを強ひるならば、それは、去られた妻《つま》が、離縁状を楯《たて》に夫婦の関係を証拠|立《だ》てやうとすると一般であると考へた。けれども、そんな理窟を、父《ちゝ》に向つて述《の》べる気は、丸でなかつた。父《ちゝ》を理攻《りぜめ》にする事は困難中の困難であつた。其困難を冒した所で、代助に取つては何等の利益もなかつた。其結果は父《ちゝ》の不興を招く丈で、理由を云はずに結婚を拒絶するのと撰む所はなかつた。
彼《かれ》は父《ちゝ》と兄《あに》と嫂《あによめ》の三人《さんにん》の中《うち》で、父《ちゝ》の人格に尤も疑《うたがひ》を置《お》いた。今度の結婚にしても、結婚其物が必ずしも父《ちゝ》の唯|一《いつ》の目的ではあるまいと迄推察した。けれども父《ちゝ》の本意が何処《どこ》にあるかは、固《もと》より明《あき》らかに知る機会を与へられてゐなかつた。彼は子として、父《ちゝ》の心意を斯様《かやう》に揣摩する事を、不徳義とは考へなかつた。従つて自分丈が、多くの親子《おやこ》のうちで、尤も不幸なものであると云ふ様な考は少しも起さなかつた。たゞ是がため、今日《こんにち》迄の程度より以上に、父《ちゝ》と自分の間《あひだ》が隔《へだた》つて来《き》さうなのを不快に感じた。
彼は隔離の極端として、父子《ふし》絶縁の状態を想像して見た。さうして其所《そこ》に一種の苦痛を認《みと》めた。けれども、其苦痛は堪え得られない程度のものではなかつた。寧《むし》ろそれから生ずる財源の杜絶《とぜつ》の方が恐ろしかつた。
もし馬鈴薯《ポテトー》が金剛石《ダイヤモンド》より大切になつたら、人間《にんげん》はもう駄目であると、代助は平生から考へてゐた。向後|父《ちゝ》の怒《いかり》に触れて、万一|金銭《きんせん》上の関係が絶えるとすれば、彼《かれ》は厭《いや》でも金剛石《ダイヤモンド》を放り出して、馬鈴薯《ポテトー》に噛《かぢ》り付かなければならない。さうして其|償《つぐなひ》には自然の愛が残る丈である。其愛の対象は他人の細君であつた。
彼は寐ながら、何時《いつ》迄も考へた。けれども、彼の頭《あたま》は何時《いつ》迄も何処《どこ》へも到|着《ちやく》する事が出来なかつた。彼は自
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