何の運動であるか慥《たし》かに解《わか》らなかつた。彼《かれ》は眼《め》を眠《ねむ》つて、家《うち》へ帰《かへ》つたら、又《また》ヰスキーの力《ちから》を借りやうと覚悟した。
彼《かれ》は此《この》取り留めのない花やかな色調《しきちやう》の反照として、三千代の事を思ひ出さざるを得なかつた。さうして其所《そこ》にわが安住の地を見出《みいだ》した様な気がした。けれども其安住の地は、明《あき》らかには、彼《かれ》の眼《め》に映じて出《で》なかつた。たゞ、かれの心《こゝろ》の調子全体で、それを認《みと》めた丈であつた。従つて彼《かれ》は三千代の顔や、容子や、言葉や、夫婦の関係《くわんけい》や、病気や、身分《みぶん》を一纏《ひとまとめ》にしたものを、わが情調にしつくり合ふ対象として、発見したに過ぎなかつた。
十一の九
翌日《よくじつ》代助は但馬にゐる友人から長い手紙を受取つた。此友人は学校を卒業すると、すぐ国へ帰《かへ》つたぎり、今日迄《こんにちまで》ついぞ東京へ出《で》た事のない男であつた。当人は無論|山《やま》の中《なか》で暮《くら》す気はなかつたんだが、親《おや》の命令で已《やむ》を得ず、故郷に封じ込められて仕舞つたのである。夫《それ》でも一年許《いちねんばかり》の間《あひだ》は、もう一返|親父《おやぢ》を説《と》き付《つ》けて、東京へ出《で》る出《で》ると云つて、うるさい程手紙を寄《よ》こしたが、此頃は漸く断念したと見《み》えて、大した不平がましい訴もしない様になつた。家《いへ》は所《ところ》の旧家《きうか》で、先祖から持《も》ち伝へた山林を年々|伐《き》り出すのが、重《おも》な用事になつてゐるよしであつた。今度《こんど》の手紙には、彼《かれ》の日常生活の模様が委しく書《か》いてあつた。それから、一ヶ月前町長に挙《あ》げられて、年俸を三百円頂戴する身分になつた事を、面白半分《おもしろはんぶん》、殊更に真面目《まじめ》な句調で吹聴して来《き》た。卒業してすぐ中学の教師になつても、此三倍は貰《もら》へると、自分と他の友人との比較がしてあつた。
此友人は国へ帰つてから、約一年許りして、京都|在《ざい》のある財産家から嫁《よめ》を貰《もら》つた。それは無論|親《おや》の云ひ付《つけ》であつた。すると、少時《しばらく》して、直《すぐ》子供が生れた。女房の
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