事は貰《もら》つた時より外《ほか》に何も云つて来《こ》ないが、子供の生長《おいたち》には興味があると見えて、時々《とき/″\》代助の可笑《おかし》くなる様な報知をした。代助はそれを読むたびに、此子供に対して、満足しつゝある友人の生活を想像した。さうして、此子供の為《ため》に、彼の細君に対する感想が、貰《もら》つた当時に比べて、どの位変化したかを疑つた。
 友人は時々《とき/″\》鮎《あゆ》の乾《ほ》したのや、柿の乾《ほ》したのを送つてくれた。代助は其返礼に大概は新らしい西洋の文学書を遣《や》つた。すると其返事には、それを面白く読んだ証拠になる様な批評が屹度あつた。けれども、それが長くは続《つゞ》かなかつた。仕舞には受取《うけと》つたと云ふ礼状さへ寄《よ》こさなかつた。此方《こつち》からわざ/\問ひ合せると、書物は難有く頂戴した。読んでから礼を云はうと思つて、つい遅《おそ》くなつた。実はまだ読《よ》まない。白状すると、読《よ》む閑《ひま》がないと云ふより、読む気がしないのである。もう一層露骨に云へば、読んでも解《わか》らなくなつたのである。といふ返事が来《き》た。代助は夫《それ》から書物を廃《や》めて、其代りに新らしい玩具《おもちや》を買《か》つて送《おく》る事にした。
 代助は友人の手紙を封筒に入れて、自分と同じ傾向を有《も》つてゐた此旧友が、当時とは丸で反対の思想と行動とに支配されて、生活の音色《ねいろ》を出《だ》してゐると云ふ事実を、切《せつ》に感じた。さうして、命《いのち》の絃《いと》の震動《しんどう》から出《で》る二人《ふたり》の響《ひゞき》を審《つまびら》かに比較した。
 彼《かれ》は理論家《セオリスト》として、友人の結婚《けつこん》を肯《うけが》つた。山《やま》の中《なか》に住《す》んで、樹《き》や谷《たに》を相手にしてゐるものは、親《おや》の取り極《き》めた通りの妻《つま》を迎へて、安全な結果を得るのが自然の通則と心得たからである。彼《かれ》は同じ論法で、あらゆる意味の結婚が、都会人士には、不幸を持ち来《きた》すものと断定した。其原因を云へば、都会は人間《にんげん》の展覧会に過ぎないからであつた。彼は此前提《このぜんてい》から此《この》結論に達する為《ため》に斯《か》う云ふ径路を辿《たど》つた。
 彼は肉体と精神に於て美《び》の類別を認める男であつた。
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