を話して当分、此方《こつち》は断念して呉れる様に頼んだ。平岡は其時《そのとき》、僕も大方《おほかた》左様《さう》だらうと思つてゐたと云つて、妙な眼《め》をして三千代の方を見《み》た。
いま一遍は、愈新聞の方が極《き》まつたから、一晩《ひとばん》緩《ゆつく》り君《きみ》と飲《の》みたい。何日《いくか》に来《き》て呉れといふ平岡の端書《はがき》が着《つ》いた時、折悪く差支が出来たからと云つて散歩の序に断わりに寄《よ》つたのである。其時平岡は座敷の真中《まんなか》に引繰《ひつく》り返《かへ》つて寐《ね》てゐた。昨夕《ゆふべ》どこかの会《くわい》へ出《で》て、飲み過《す》ごした結果《けつくわ》だと云つて、赤い眼《め》をしきりに摩《こす》つた。代助を見て、突然《とつぜん》、人間《にんげん》は何《ど》うしても君の様に独身でなけりや仕事は出来ない。僕も一人《ひとり》なら満洲へでも亜米利加へでも行くんだがと大いに妻帯の不便を鳴らした。三千代は次《つぎ》の間《ま》で、こつそり仕事《しごと》をしてゐた。
三遍目《さんべんめ》には、平岡の社へ出た留守を訪《たづ》ねた。其時は用事も何もなかつた。約三十分許り椽へ腰《こし》を掛《か》けて話《はな》した。
夫《それ》から以後は可成小石川の方面へ立ち回《まは》らない事にして今夜《こんや》に至たのである。代助は竹早町へ上《あが》つて、それを向ふへ突き抜けて、二三町行くと、平岡と云ふ軒燈のすぐ前へ来《き》た。格子の外《そと》から声を掛《かけ》ると、洋燈《ランプ》を持つて下女が出《で》た。が平岡は夫婦とも留守であつた。代助は出先《でさき》も尋ねずに、すぐ引返して、電車へ乗つて、本郷迄|来《き》て、本郷から又神田へ乗り換えて、そこで降りて、あるビヤー、ホールへ這入つて、麦酒《ビール》をぐい/\飲んだ。
十一の五
翌日《よくじつ》眼《め》が覚《さ》めると、依然として脳《のう》の中心から、半径《はんけい》の違《ちが》つた円《えん》が、頭《あたま》を二重《にぢう》に仕切つてゐる様な心持がした。斯《か》う云ふ時に代助は、頭《あたま》の内側《うちがは》と外側《そとがは》が、質《しつ》の異《こと》なつた切り組《く》み細工で出来上《できあが》つてゐるとしか感じ得られない癖《くせ》になつてゐた。夫《それ》で能《よ》く自分《じぶん》で自分《じぶん
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