も見付《めつか》らないんですか」
「その方はまあ安心なの。来月《らいげつ》から新聞の方が大抵出来るらしいんです」
「そりや好《よ》かつた。些《ちつ》とも知らなかつた。そんなら当分夫で好《い》いぢやありませんか」
「えゝ、まあ難有いわ」と三千代は低い声で真面目《まじめ》に云つた。代助は、其時三千代を大変|可愛《かあい》く感じた。引き続《つゞ》いて、
「彼方《あつち》の方《ほう》は差し当《あた》り責《せ》められる様な事もないんですか」と聞《き》いた。
「彼方《あつち》の方《ほう》つて――」と少《すこ》し逡巡《ためら》つてゐた三千代は、急《きう》に顔《かほ》を赧《あか》らめた。
「私《わたし》、実は今日《けふ》夫《それ》で御詫《おわび》に上《あが》つたのよ」と云ひながら、一度|俯向《うつむ》いた顔を又|上《あ》げた。
 代助は少しでも気不味《きまづ》い様子を見せて、此上にも、女の優《やさ》しい血潮を動《うご》かすに堪えなかつた。同時に、わざと向《むか》ふの意を迎へる様な言葉を掛《か》けて、相手を殊更に気の毒がらせる結果を避けた。それで静かに三千代の云ふ所を聴いた。
 先達《せんだつ》ての二百円は、代助から受取《うけと》るとすぐ借銭《しやくせん》の方へ回《まは》す筈《はず》であつたが、新《あた》らしく家《うち》を持《も》つた為《ため》、色々《いろ/\》入費が掛《かゝ》つたので、つい其方の用を、あのうちで幾分か弁《べん》じたのが始《はじま》りであつた。あとはと思つてゐると、今度《こんど》は毎日の活計《くらし》に追《お》はれ出《だ》した。自分ながら好《い》い心持《こゝろもち》はしなかつたけれども、仕方《しかた》なしに困《こま》るとは使《つか》ひ、困《こま》るとは使《つかひ》して、とう/\荒増《あらまし》亡《な》くして仕舞つた。尤もさうでもしなければ、夫婦は今日《こんにち》迄|斯《か》うして暮《く》らしては行《い》けなかつたのである。今から考へて見ると、一層《いつそ》の事|無《な》ければ無《な》いなりに、何《ど》うか斯《か》うか工面《くめん》も付《つ》いたかも知れないが、なまじい、手元《てもと》に有《あ》つたものだから、苦《くる》し紛《まぎ》れに、急場《きうば》の間《ま》に合《あ》はして仕舞つたので、肝心の証書を入れた借銭《しやくせん》の方は、いまだに其儘にしてある。是は寧《むし
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