》ろ平岡の悪《わる》いのではない。全く自分の過《あやまち》である。
「私《わたし》、本当《ほんとう》に済《す》まない事をしたと思つて、後悔してゐるのよ。けれども拝借するときは、決して貴方《あなた》を瞞《だま》して嘘《うそ》を吐《つ》く積《つもり》ぢやなかつたんだから、堪忍《かんにん》して頂戴」と三千代は甚だ苦《くる》しさうに言訳《いひわけ》をした。
「何《ど》うせ貴方《あなた》に上《あ》げたんだから、何《ど》う使《つか》つたつて、誰《だれ》も何とも云ふ訳はないでせう。役《やく》にさへ立《た》てば夫《それ》で好《い》いぢやありませんか」と代助は慰《なぐさ》めた。さうして貴方《あなた》といふ字をことさらに重《おも》く且つ緩《ゆる》く響《ひゞ》かせた。三千代はたゞ、
「私《わたし》、夫《それ》で漸く安心したわ」と云つた丈であつた。
雨が頻《しきり》なので、帰《かへ》るときには約束通り車《くるま》を雇つた。寒《さむ》いので、セルの上《うへ》へ男の羽織を着《き》せやうとしたら、三千代は笑つて着《き》なかつた。
十一の一
何時《いつ》の間《ま》にか、人《ひと》が絽《ろ》の羽織を着《き》て歩《ある》く様になつた。二三日、宅《うち》で調物《しらべもの》をして庭先《にはさき》より外《ほか》に眺《なが》めなかつた代助は、冬帽を被《かぶ》つて表《おもて》へ出て見《み》て、急に暑さを感じた。自分もセルを脱《ぬ》がなければならないと思つて、五六町|歩《ある》くうちに、袷《あはせ》を着《き》た人《ひと》に二人《ふたり》出逢《であ》つた。左様《さう》かと思ふと新らしい氷屋で書生が洋盃《コツプ》を手《て》にして、冷《つめ》たさうなものを飲んでゐた。代助は其時誠太郎を思ひ出《だ》した。
近頃代助は元《もと》よりも誠太郎が好《す》きになつた。外《ほか》の人間《にんげん》と話《はな》してゐると、人間《にんげん》の皮《かは》と話《はな》す様で歯痒《はがゆ》くつてならなかつた。けれども、顧《かへり》みて自分を見ると、自分は人間中《にんげんちう》で、尤も相手を歯痒《はがゆ》がらせる様に拵《こしら》えられてゐた。是も長年《ながねん》生存競争の因果《いんぐわ》に曝《さら》された罰《ばち》かと思ふと余り難有い心持はしなかつた。
此頃誠太郎はしきりに玉乗りの稽古をしたがつてゐるが、それは、全
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