衣《ひとへ》の下《した》に襦袢を重《かさ》ねて、手《て》に大きな白い百合《ゆり》の花《はな》を三本|許《ばかり》提《さ》げてゐた。其百合《そのゆり》をいきなり洋卓《テーブル》の上《うへ》に投《な》げる様に置《お》いて、其|横《よこ》にある椅子《いす》へ腰《こし》を卸《おろ》した。さうして、結《ゆ》つた許《ばかり》の銀杏|返《がへし》を、構《かま》はず、椅子《いす》の脊《せ》に押《お》し付《つ》けて、
「あゝ苦《くる》しかつた」と云ひながら、代助の方を見て笑《わら》つた。代助は手を叩《たゝ》いて水《みづ》を取り寄《よ》せ様とした。三千代は黙《だま》つて洋卓《テーブル》の上《うへ》を指《さ》した。其所《そこ》には代助の食後《しよくご》の嗽《うがひ》をする硝子《がらす》の洋盃《コツプ》があつた。中《なか》に水《みづ》が二口許《ふたくちばかり》残つてゐた。
「奇麗なんでせう」と三千代が聞《き》いた。
「此奴《こいつ》は先刻《さつき》僕《ぼく》が飲んだんだから」と云つて、洋盃《コツプ》を取《と》り上《あ》げたが、※[#「足へん+厨」、第3水準1−92−39]躇《ちうちよ》した。代助の坐《すは》つてゐる所から、水《みづ》を棄《す》てやうとすると、障子の外《そと》に硝子戸《がらすど》が一枚邪魔をしてゐる。門野《かどの》は毎朝椽側の硝子戸《がらすど》を一二枚宛|開《あ》けないで、元《もと》の通《とほ》りに放《ほう》つて置く癖《くせ》があつた。代助は席《せき》を立《た》つて、椽へ出《で》て、水《みづ》を庭《には》へ空《あ》けながら、門野《かどの》を呼《よ》んだ。今ゐた門《かど》野は何処《どこ》へ行つたか、容易に返事をしなかつた。代助は少《すこ》しまごついて、又|三千代《みちよ》の所《ところ》へ帰つて来《き》て、
「今《いま》すぐ持《も》つて来《き》て上《あ》げる」と云ひながら、折角|空《あ》けた洋盃《コツプ》を其儘|洋卓《テーブル》の上に置《お》いたなり、勝手の方へ出《で》て行つた。茶《ちや》の間《ま》を通ると、門野《かどの》は無細工な手をして錫《すゞ》の茶壺《ちやつぼ》から玉露を撮《つま》み出《だ》してゐた。代助の姿《すがた》を見て、
「先生、今|直《ぢき》です」と言訳《いひわけ》をした。
「茶は後《あと》でも好《い》い。水《みづ》が要《い》るんだ」と云つて、代助は自分で台所へ出《
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