ない。
長い日であり長い夜であつたが、うれしい日であれ[#「れ」に「マヽ」の注記]、うれしい夜でもあつた。

 七月六日[#「七月六日」に二重傍線] 曇。

おつとめがすんで、障子をあけはなつと、夜明けの山のみどりがながれこむこゝろよさは何ともいへない。
道即事[#「道即事」に傍点]、事即道[#「事即道」に傍点]。
行住座臥の事々物々を外にして、どこに人生があるか、道があるか。
生活とは念々撓まざる行[#「念々撓まざる行」に傍点]である。
貪らざるなり、偽らざるなり、驕らざるなり。
すなほにしてつゝましく、しづかにしてあたゝかく。
愛するなり、敬ふなり、奉るなり。
雨を観、雨を聴く、心浄うして体閑かなり。
五十五才にして五十五年の非を知る、噫、生々死々去々来々転々また転々。
隠すことなく飾ることなく、媚びることなく。
きどらずに、ごまかさずに、こだはらずに。
無理のない生活、拘泥しない生活、滞らない生活、悔恨のない生活[#「悔恨のない生活」に傍点]。
おのづから流れて、いつも流れてとゞまらない生き方、水のやうな、雲のやうな、風のやうな生き方。
自他清浄、一切清浄。
だらけきつた身心がひ
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