。
天地暗く私も暗い。
十時の汽車で南へ南へ。――
雨、風、時化日和となつた。
夜一時福井着、駅で夜の明けるのを待つ。
明けてから歩いて、永平寺へ、途中引返して市中彷徨。
七月三日[#「七月三日」に二重傍線] 曇。
ぼつり/\歩いてまた永平寺へ、労れて歩けなくなつて、途中野宿する、何ともいへない孤独の哀感だつた。
七月四日[#「七月四日」に二重傍線] 晴。
どうやら梅雨空も霽れるらしく、私も何となく開けてきた。
野宿のつかれ、無一文のはかなさ。……
二里は田圃道、二里は山道、やうやくにして永平寺門前に着いた。
事情を話して参籠――といつてもあたりまへの宿泊――させていたゞく。
永平寺も俗化してゐるけれど、他の本山に比べるとまだ/\よい方である。
山がよろしい、水がよろしい、伽藍がよろしい、僧侶の起居がよろしい。
しづかで、おごそかで、ありがたい。
久しぶりに安眠。
七月五日[#「七月五日」に二重傍線] 永平寺にて。
早朝、勤行随喜。
終日独坐、無言、反省、自責。
酒も煙草もない、アルコールがなければ、ニコチンがなければ、などゝいふも我儘だ。
山ほとゝぎす、水音はたえ
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