これは悲しい手紙だ、私の全心全身をぶちまけた手紙だ(或は遺書といつてもよからう!)、懺悔告白だ。
良寛遺墨を鑑賞する、羨ましい、そして達しがたい境地の芸術である。
多々楼君、都影君、江畔老、緑平老、……感謝々々。
六月廿九日[#「六月廿九日」に二重傍線] 曇。
沈静、いよ/\帰ることにする、どこへ。
とにかく小郡まで、そこにはさびしいけれどやすらかな寝床がある。……
七時、さよなら、ありがたう、ごきげんよう、青衣子よ、坊ちやんよ。
十時の汽車で逆戻り、二時、鳴子下車、多賀の湯といふ湯宿に泊る、質実なのが何よりうれしい。
いつでもどこでも、帰家穏座の心でありたい。
どしや降りになつて旅愁しきり。
六月三十日[#「六月三十日」に二重傍線] 雨――曇。
眼さめるとすぐ熱い熱い湯の中へ、それから酒、酒、そして女、女だつた。
普通の湯治客には何でもないほどの酒と女とが私を痛ましいものにする。
七月一日[#「七月一日」に二重傍線] 晴。
身心頽廃。
四時出立、酒田泊。
アルコールがなければ生きてゐられないのだ、むりにアルコールなしになれば狂ひさうになるのだ。……
七月二日 曇
前へ
次へ
全80ページ中71ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング