今浪界第一の人気者だが、若い時は信濃川分水工事の土方だつたさうな、あまり浪花節がうまく、彼がうたひだすと、みんな聞き惚れてしまつて仕事が手につかないので解雇されたといふことだ。
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○虹果君から聞いた話。
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北国ではよく飲む、冬ごもりは毎日毎夜飲むさうで、酒でも飲まなければやりきれないといふ、そんなわけで、一升[#「一升」に傍点]飲むとか二升[#「二升」に傍点]飲むとかいはないで、二日[#「二日」に傍点]飲めるとか三日[#「三日」に傍点]飲めるとかいつて酒量を日数であらはすさうな。
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海国から輸入された鯡が山国信濃化[#「信濃化」に傍点]されて鯡昆布巻[#「鯡昆布巻」に傍点]となつて特殊の味と値とを持つた。

 五月三十一日[#「五月三十一日」に二重傍線] 雨。

夢のやうに雨を聞いたが、やつぱり降つてゐる、昨日こゝまで来てゐたことは(宿屋で断られて汽車に乗つたのだつたが)ほんたうによかつた、宿で降りこめられて旅費と時間とを浪費することは私のやうなものには堪へがたい。
早く眼は覚めたけれど家人の迷惑を考へて、床の中でぼ
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