野かといはれるほどであつて、善光寺はまことにうれしい寺院である、お開帳がすんだばかりで、まだその名残がある、八百屋お七物語の吉三郎建立と伝へる濡仏がある、大勧進大本願の建物は、両者の勢力争を示さないでもない、山門も本堂もがつちりとして荘麗といふ外はない(何と鳩、いや燕の多いことよ)、それにしても参道の両側の土産物店の並んでゐること、そしてその品々の月並なこと。
帰途紅葉城君の御馳走でやぶ[#「やぶ」に傍点]といふ蕎麦中心の料理屋へ寄つた、座敷も庭園も蕎麦も料理も悪くなかつた、私にはよすぎるよさだつた、紅君とは別れて北君と二人で入浴して帰宅して安眠した。
五月廿九日[#「五月廿九日」に二重傍線] 曇。
逢ふは別れのはじめ、名残の酒杯をかはして、衣更して、いろ/\御世話になりました、どうぞ御大事に。……
長野駅はそれにふさはしい仏閣式建物[#「仏閣式建物」に傍点]である、こゝまで北光君と紅葉城君とが見送つて下さつた、そして切符やら煙草やら何やらかやら頂戴した、八時の汽車で柏原へ。――
車中で遠足の小学生が私に少年の夢を味はせてくれた、山のみどりのうつくしさ、まつたく日本晴の日本国だ、
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