廿八日[#「五月廿八日」に二重傍線]

曇、もう霽れてもよいだらう、どうやら霽れさうだ、白馬連峰が遠く白くかゞやいてゐる。
午前中はおとなしく執筆。
酒はやつぱりうまい、朝酒、昼酒、晩酒よろしい、今日は今日の風がふくまゝに、明日は明日の風がふくだらう、/\といつた気分で、さよなら/\、ありがたう/\、はい/\。
午后は北光君に連れられて紅葉城君を訪ねる、一杯機嫌で揮毫。
三人同道して長野見物――
まづ西光寺(刈萱親子地蔵尊)へ詣でる、父寂照坊母千里御前、そのまんなかに道念坊の墓がある、それから美篶《ミスズ》橋上に立つ、白根山四阿山のすがたもよろしい。
向うは川中島、そこは千曲川と犀川とが合流するところで有名な古戦場、前は杏の里と呼ばれる部落、朝日山の阿弥陀堂はその右手に見える、さらに裾花川に架してある相生橋のほとりへ行く、とても巨大な柳がある、すこし溯ると白岩といはれる戸隠名勝裾花渓最初の観光場所がある、今日は雪解で水が濁り、桜は散つて河鹿はまだ鳴かない。
街をまつすぐにいよ/\善光寺である(途中郵便局でKからの手紙を受取つた、すまない/\ありがたい/\)。
長野の善光寺か、善光寺の長
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