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揉湯――時間湯。
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五月廿五日[#「五月廿五日」に二重傍線] 行程四里(上り三里、下り一里)。
からりと晴れてまさに日本晴、身心あらたに出立する、万座温泉まで四里には近いのだが、七時半から三時までかゝつた、ずゐぶん難かしい山路だつた。
草津の街を出はづれると落葉松林、それから落葉松山、そして灌木と熊笹、頂上近くなれば硫黄粘土と岩石ばかり。
白根山は噴煙をふきあげてゐる、荒凉として人生の寂寥を感じた。
涙のない人生、茫漠たる自然。
五月廿五日(続)
まことにしづかな道だつた、かつこうもうぐひすもほうじろもよく啼いてくれたが、雪のあるところはすべるし、解けたところはぬかつてゐるし、はふたりころんだり、かなり苦しんだ。
残雪をたべたり、見渡したり、雪解の水音を聴いたり、ぢつと考へこんだり。
山、山、山、うつくしい山、好きな山、歩き慣れない雪の山路には弱つたが、江畔おくるところの杖で大いに助かつた、ありがたし/\。
草津から二里あまり登つて芳ヶ平、ヒユツテーがある、スキーの盛んなことだらうなどゝ思ひつゝ歩いた。
○白根山の頂上は何と
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